ちくわぶろぐ

なぁゲームの話をしようじゃないか

魔術師 還らず



 

親に買ってもらった大きいサイズのスーパー5段変速自転車を、なんとか乗りこなせる様になった僕は、おもちゃ屋やスーパーのゲームコーナーを毎日冷やかしに巡回して回るといった、相変わらず頭の悪い子供だったのですが、 ある台風が直撃した日に、ビッグ1ガムのおまけの戦艦大和プラモデルがどうしても欲しくなってしまった僕は、意を決し激しい雨の中、カッパを着ただけの装備で近所の大型デパート「ニチイ」へとガムシャラに自転車を漕ぎ出すのであった。

 

 

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吹き荒れる風と叩きつけるような豪雨を体中に浴びながら、まだ見ぬ戦艦大和を夢見て、風にあおられ死にそうになりながら、どうにか無事に「ニチイ」までたどり着く。

 

 

 パンツの中までずぶ濡れの僕は、水滴だらのメガネをびしょ濡れのシャツで拭うと、そのままお菓子売り場に直行、売り場のカゴに雑多に置かれた大量のビッグ1ガムの覗き窓を1つ1つ選別し、お目当ての戦艦大和を探すのだが、先に来ていた略奪者たちよって、既に大和だけ根こそぎ抜き取られた後であり、カゴの前でずぶ濡れのまま途方に暮れる。

 

 

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大和以外のラインナップに特に欲しいものはなかったので、雨でふやけしわしわになった手に冷たい100円玉を握りしめ、お菓子売り場を後にし、そのままゲームコーナーに直行し、大和を買えなかった憂さを存分に晴らしに行くのだ。

 

流石にこんな台風の真っただ中にわざわざデパートのゲームコーナーなどに来る人など誰もおらず、完全に僕だけの貸し切り状態である。

薄暗い店内に「ニューラリーX」の軽快なメロディだけが延々と響き渡る誰もいない空間に一人ぼっちでいると、なんだか急に不安な気持ちになり、陰鬱な気持ちでゲームコーナーを彷徨っていると、壁際にずらりと並んだピンボールコーナーにある、古びたとある台に目が止まる。

 

ピンボールとは傾斜した盤面上を転がる鉄球をアウトゾーンから落ちないよう、上手に2つのフリッパーで弾き返して、盤上のターゲーットに当て高得点を競う海外製のアナログなゲーム機であり、国内では70年代辺りから遊園地やデパートの屋上、ボーリング場などの遊戯施設やなどに置かれ始め、徐々に娯楽機として普及していたようで、このゲームコーナーにも結構な台数が古くから設置されていたようである。

 

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 普段はピンボール機などには全く目もくれず、ひたすらビデオゲームばかり遊んでいた為、その存在自体あまり気にもかけてはいなかったのだが、その日だけは薄暗がりにチカチカと怪しくランプの点滅する無骨な筐体に何故か魅入られてしまい、握り締められたホカホカの100円玉を何も考えずに投入してしまうのである。

 

 

コインを投入すると、さっきまで派手に点滅していたランプが一気に消え、ファンファーレのような音楽が流れ終わると、ガコンという音とともにボールが右下に出現し、私に打ち出されるのを静かに待っている。

 

たどたどしい手つきでプランジャーを目いっぱい引き絞り、パっと手を放し打ち出すと、直径2.8cmの鉄球は勢いよくレーンから飛び出していく。

スピードに乗った球は盤上に設置されたターゲットに弾かれ、跳ね飛ばされながら軌道を不規則に変え、落下スピードに乗って高速で落ちてくる

 

筐体横部についている2つのボタンをパタパタ連打し、何とか一生懸命打ち返しているのだが、ど真ん中のコースに一直線に落ちてくる速球を拾えず、開始3分も持たず球を2個もロストしてしまい残り一球という状態。

 

やっぱりやったことのないピンボールなんかせずに、なにか他のゲームにしておけば良かったなと軽く後悔しながら最後の球を打ち出す。

 

今までは球を落としたくない一心でフリッパーを連打していたのだが、結局それでは拾いきれないというのが分かったので、今度はちゃんとフリッパーを上げて落ちてきた球を一旦止めておいて(ホールド技というらしい)狙った場所に打ち出して、時間をかけてじっくりと攻略していくことにする。

 

この作戦が良かったのか、時間はかかるものの今までのように理不尽に死ぬことはなくなり、更にフリッパーのどの辺りで打ち返せば、どのルートに球が移動し、どのターゲットに当たりどの場所に帰ってる来るかといった、ある程度の軌道が読めるようになってきたのである。

 

 

 

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とよ田みのるFLIP-FLAP

 

 

何度か打ち出す場所を変えながら色々と試しているうち、打ち出された球がランプレーンを通って同じフリッパーに戻ってくる場所を発見、こりゃあいいやと何度も何度も同じ場所に無限ループで打ち返し続け、セコくスコアをちびちび稼いでいると、突然派手な音楽が鳴り響き、全てのランプが壊れたようにピカピカと点滅を繰り返す。

 

すわ何事かと球をフリッパーで止めたまま状況を見守っていると、「マルチボール!」という熱いナレーションの後ノリノリのBGMが鳴り響き、いきなり球が2球追加で打ち出されてしまい、状況に理解が追いつかず硬直状態に陥る

 

合計三個のボールが一気に登場し、盤面は超絶カオスな状況に

流石に3つの球を全部追うことはできず、結局フリッパーをパタパタと連打し無我夢中でボールを撃ち返していると「ジャックポット!」「ジャックポット!」と狂ったようにマシンが叫び続け、スコア表示機が壊れたようにガンガン上がっていくパニックモードに突入

 

あわあわと必死に対応するも、結局全部の球を立て続けに落としてしまい、この熱狂的なフィーバー状態から解放され、興奮冷めやらぬままゲームオーバー

 

この予想しなかった熱い展開に脱力感を感じながら呆然とその場に立ち尽くしていると、突然ピンボール台から「コーン!」という木を打ち付けたような甲高い音が響き、お金も入れていないのに何故か新たなゲームが勝手に開始されており、「さぁ もっと遊ぼうぜ」とばかりに私が再度プランジャーを引くのを手ぐすね引いて待ち構えている様に思えた。

 

 

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誰も人のいない暗がりの中、チカチカとランプを光らせながら物言わず佇むこの古ぼけたピンボールマシンが、子供心に無性に恐ろしくなり、クレジットの残ったままのゲーム機から逃げ出すように退散し、すでに雨の上がった薄暗い帰り道を、何故かパンクしていた愛車を押しながらトボトボと帰路につく。

 

 

 

 

その後の国内のピンボールマシンは、この後台頭してくるビデオアーケドゲームの煽りをもろに食らい、次第にその姿を消していき、メンテナンスの複雑さもあり、現在では実働している台は数えるほどしかないといった実情なのですが、

 

あの日誰もいないゲームコーナーで見た、名前も知らないピンボール台のあの輝きは

 

「どうだ 俺はビデオゲームなんか負けないぐらい面白いんだぞ」

「お願いだから誰か俺と遊んでくれよ」

 

といった消えゆく者の最後の魂の叫びのようなものだったのかな… 

なんておセンチな想いを馳せながら、すぐに味のなくなるビッグ1ガムのようなゲームを今もダラダラと遊び続けているのである。

 

 

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