ちくわぶろぐ

なぁゲームの話をしようじゃないか

少し扉を開くだけです

 


 

一般的な昭和のご家庭では、月に一度くらいの頻度で家族そろって

近所の大型デパート「ニチイ」へ行くのが恒例行事なのである。

 

しかし いざ買い物となると、僕のようなクソガキはお邪魔なので

入店早々おもちゃコーナーに放置され、後で落ち合うよう指示され

緊急用に渡された100円でしばらく時間を潰さねばならないのである。

 

しかたがないので買えもしない高価なおもちゃをうっとり眺めたり

棚に並んだプラモデルの箱を開けたり閉めたり棚に戻したり

レバーの折れた展示機の家庭用機「カセットビジョン」で

「木こりの与作」の突進してくる猪に果敢に切りかかったりして

なんとか時間を潰していたのだが、次第に飽きてきた僕は

おもちゃコーナーを出て、当てもなく店内をぶらついていると

デパート内のゲームコーナーらしき場所を見つける。

 

 

 【木こりの与作】1981:【エポック】

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奥から微かに聞こえてくる両替機のジャラジャラしたコインの音や

大音量で鳴り響くアーケードゲームの独特の電子音に惹かれ

明かりを見つけた蛾のようにフラフラとそのまま入店

 

日曜という事もありゲームコーナー内はかなりの人でごった返し

入り口付近は人が通るのも困難なぐらいの混雑ぶりである。

 

 

その中でも一番人気はビル登りゲーム「クレイジークライマー

素手でのビル登頂が目的というまさにクレイジーなゲームシステム

誰も考えつかなかった、2本レバーを使った独創的な操作性

まだ珍しかった効果音以外のゲーム音楽と合成音声の採用等

当時としてはかなり時代を先取りした怪ゲームである。

 

 

 【クレイジークライマー】1980:【日本物産

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とはいえ、既に何人も並んでプレイ順を待っている状態で

大勢のギャラリーを背負い、下手糞なプレイを見られるのが恥ずかしい

トゥシャイシャイボーイな僕チンにはとてもプレイなど無理なのである。

 

一方 遊びにパテントのない頃の任天堂迷作パクりSTG

「スペースフィーバー」や「レーダースコープ」はあまり人気がなく

これなら並ばず今すぐ遊べるのだが、どうもこの手のゲームは苦手で

以前何度か本家のインベーダーゲームをやったことがあるのですが

いつも1面も持たずにゲームオーバーになった苦い思い出から今回は敬遠

 

 

 【スペースフィーバー】1978:【任天堂

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ずらりと並んだピンボールマシンにも当時は全く興味なく

 手の中でホカホカに温まった、たった1枚のこの100円玉を

どのゲーム機に捧げるかを決めかねていたのだが

時間的に親の買い物が終わりそうな頃合いであり、

そろそろ言いつけられたおもちゃコーナーに帰っておかねばならず、

そう考えるといつまでも迷ってばかりじゃいられなく

もう腹を括らねばならないのである。

 

 

しらけ鳥のテーマが大音量で鳴り響く筐体の取り巻きから離脱し

あまり人のいない奥の方にある薄暗い一角へ足を進める。

 

奥には大スクリーンで電子銃のライフルを使ったクレー射撃のゲームや

潜水艦のペリスコープを覗き、中に見える模型の軍艦を魚雷で沈める

いわゆる大方筐体タイプのゲームが設置されたコーナーだったのだが

その中のとある古臭い筐体の画面に目が止まる。

 

 筐体には固定された銃のようなものが取り付けられており

どうやらガンシューティングタイプのゲームのようだ。

 

画面を覗くとホログラム映像のようなぼんやりした感じの映像で

ディスプレイ内をエイのような大型魚がゆっくりと泳ぎ回っており

その幻想的な画面に心を奪われ、そのまま無意識にコインを投入し

汗ばんだ手で筐体に取り付けられた冷たい銃を握りしめていた

 

画面上を優雅に泳ぐ目標に銃口を向け、やや興奮気味に引き金を引く

「ポーン」というくぐもった音とともに水中銃の銛のような銃弾が

魚雷のような波跡を曳きながら、ゆっくりと画面奥に進んでいく

 

やや興奮しながら2発目、3発目と立て続けに発射 

そのうちの1本の銛が見事目標に命中する。

 

すると水中に血煙を撒き散らしながら、苦しそうにのたうち回るエイ

見事目標に命中させた喜びと、血を吹いてもがき苦しむエイを見て

罪悪感とも高揚感ともいえない、得も言われぬ快感に恍惚となり

暫らくの間エイの虐殺行為の快楽に酔いしれていた。

 

こうしてトリガーハッピー状態で無我夢中で銃を乱射していると

突然バチンと大きな音が鳴り、無反応状態になってしまい

いくら引き金を引いても銛が撃てなくなってしまった

 

どうやら時間切れのようで、ゲームの中では元の平和な海中に戻り

先ほどの凄惨な虐殺などまるで何事もなかったような静けさである。

 

ふと我に返り、今しがた自分の行った行為に軽い嫌悪感をおぼえ

呆然と筐体をみていると、今回殺したエイの殺害数を示すランプが

筐体上部でぼんやりと灯っており、まるでこの無慈悲な虐殺劇が

夢ではなかったことを無言で訴えかけているようである。

 

 

 

子供心に少し怖くなり 、無言で筐体の前で立ち尽くしていると

買い物を終えた、母親がおもちゃ売り場にいない僕を探しに来ており

どうやら何度も店内放送で迷子の呼びかけをしていたらしく

こっぴどく叱られながら巨大デパートニチイを後にする。

 

帰りに買ってもらった溶けかけのソフトクリームを舐めながら

何か後味の悪いもやもやした気持ちを胸に抱き車に揺られ家路につく

 

 

 

しばらくして また家族でニチイへ行く機会があったのですが

かなり老朽化していたせいか、あのエイ撃ちのゲームは

既にゲームコーナーから姿を消しており 残念ながらその後

二度とは遊ぶ機会はなかったのですが、名前も知らないこのゲームは

今でも僕の心に深く刺さったまま今に至るのである。